うれしいお風呂
僕は九九が言えない。言えないというのは「全部をスムーズには言えない」ということで、一の段から順番に暗唱していくと大体どこかでつまづく。ちなみに「大化の改新」の年号も覚えていないのだけど、この辺に関しては、「恥ずかしい」というよりも余計なことをスッパリと忘れ切ってしまう自分の忘却力を褒め称えたい。というより、そういう暗記ものを忘れてしまってさて困ったぞ、という事態に遭遇したことがないので、差し当たって自分のもうろくぶりに活を入れる機会がない。というか、皆の常識だったらむしろ忘れていたい(らしい)。 とにかく、九九が言えない、わけだけど。それは多分僕のせいだけじゃない。きっと九九の側に(も)重大な欠陥があるに違いない。というわけで、以下は「人はいかにして九九を忘れるか」について。 当然のことだけど、九九は二つの数字を入れ替えても積は一緒。3×4も4×3も12。で、次。九九は暗記ものだけど、音を体で覚えちゃうわけで、それを素直に暗唱し続けているうちはまず忘れない。 問題は実際に運用を始めてから。35という数字がある。九九だと5×7か7×5。で、35という数字と九九が結びついたとき、ほとんどの人は「直截的に」5×7か7×5を頭に浮かべる。五の段を最初から数え上げたり七の段を最初から数え上げたりする人はあんまりいない。そして大抵の人は5×7か7×5のどちらかだけを思い浮かべるのであって、両方を使う人は稀だと思う。ちなみに僕の場合は7×5=35(しちごさんじゅうご)の方が圧倒的にしっくりくる。というわけで、僕にとって35=7×5であり、そんな計算を繰り返す内「しちごさんじゅうご」という音が自然と頭に(もしくは体に)強くプリンティングされていく。だからこの場合、七の段の5でつまづく(しちごさんじゅうご、で詰まる)ことはまずない。危ないのはもう一つの35、5×7=35(ごしちさんじゅうご)の方だ。こっちは全然唱える機会に恵まれず、すなわち「ごしちさんじゅうご」という音はさっぱり馴染まなくなっているばかりか、35(さんじゅんご)という音と7×5(しちご)という音ががっちりと結びついてしまった結果「ごしち、さんじゅうご」には違和感すら漂うことになる。 さて、そこで五の段の暗唱に入る。 5...